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おばあちゃん劇団「ほのお」主宰 大石さきさん 【この人に聞く!】

2015年08月05日

大石さきさん

大石さきさん

●老いを生きる姿を演じ続け40年
劇を始めたきっかけは、ひとり暮らしで話し相手のいないお年寄りを励ますためでした。当時、私も含め、藤枝市の民生委員と保健婦で台本を作りました。その時私は、福祉事務所の保健婦として、地域の老人の健康指導のためにあちこちの家庭を訪問していました。しかしいろいろと健康のための指導をしても、それを実行してもらわないと意味がありません。また、各家庭への訪問で気づいたのが、お年寄りの孤独という問題です。これらの問題を解決しようと思い、言葉より劇にしたほうがわかりやすいのではないかと考えました。1975年のことで、私が58歳の時です。劇団を「ともしび」と名付けました。
この公演は大好評を得まして、そこから評判が広まって、各地からやってほしいという声がありました。1987年には劇団名を「ともしび」から「ほのお」に変え、静岡県内のほとんどの市町村を回り、さらに東京や福岡まで公演に行ったこともありました。そんなこんなで、これまで通算850回の劇を上演してきました。劇をやっていて一番の醍醐味は、お客さんが拍手をしてくれ、「そうだそうだ、その通りだ。」と言ってくれることです。

●人は誰でも老いる
劇の中で伝えたかったのは、老いをめぐる様々な家族の問題です。老いを感じている老人の、介護や認知症、死に向きあう不安とその家族の話です。老いると、耳は遠くなってくるし、目はショボショボしてくる、そういった自分の老いの現実をありのまま、劇で表現する。そういったことを通して老人問題をわかりやすく伝えてきました。
年をとるということは、大変なことだとしみじみ思います。今自分がこうして100歳近くになってみると、昔、保健婦だったころ健康指導したお年寄りたちの心理がよくわかります。ひとり暮らしでも、家族がいても、体力の衰えや、社会や家庭からの疎外感から、孤独を感じるお年寄りは多いと思います。
人は誰でも老います。しかし実際に老いてみないと、その心境はわからないと思います。

●生きる、生かされる、ありがとう
一昨年、腰の骨を折って3か月間寝たきりになりました。寝たきりになれば認知症になってしまう。そうなると生きる甲斐がないと、とても悲観しました。しかし、そこから思い直して、「また起きなくてはいけない。まだ私も何かやらなくてはいけない。」と歩き始めました。どうやらぼちぼち歩けるようになりました。今は朝、家の周りを1時間くらい歩いています。人間というものは、気力ですね。自分でやろうという気力が大事だと思います。
しかしなんといっても、100歳という年齢で生きることは大変です。これまで生きてきた中で、一番大変な時期は、「今」です。けがをして寝たきりになった時は、とても不安でした。時々、ひとりになると思います。「私はいつまで生きるのだろう?今年いっぱいかしら?来年かしら?」と。生きるということは何なのかと考えることもあります。
生きるということは、大変だけれど素晴らしいことだと思います。私は劇をやってきたからこそ、この年まで元気に生きてこられたのだと思っています。
そして今まで劇をやってこられたのも、皆さんのおかげだと思って、感謝しています。
生かされていることに感謝の気持ちがなければ、ダメです。「生きる、生かされる、ありがとう」これが、私の座右の銘です。
もう少しで100歳になりますが、家族の迷惑にならないように、自分の力で生きたいと思っています。そのために、自分でできることは自分でやっています。

●女性は遠慮してはいけない
かつて、私が藤枝市役所で初めて女性の係長になったとき、男性から生意気だとさんざん言われて、もうやめようかしらと思ったこともありました。しかし、とにかく仕事で男性に負けないようにやろうじゃないかと考え直し、努力しました。女性でもできるのだという気持ちはずっと抱いてきました。男性だけができるのではなく、女性もやればできるのだと。
現在は、女性の管理職も増えてきましたが、まだまだ女性のほうで遠慮しているところがあると感じています。若い女性たちに言いたいのは、後ずさりする必要はないということです。自分がやりたいと思うことを思い切ってやって、今を大切にしてほしいです。人生は二度とありません。もっとやっておけばよかったと、悔いても人生は戻ってきません。
私は間もなく100歳になります。過去を振り返った時、かつて自分がいろいろと活動してきたことが、今となっては夢のようですが、その時々で思い切ってやってきたことは、悔いてはいません。