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NPO法人サステナブルネット 渡邊修一さん【この人に聞く! 】

2015年12月11日

渡邊修一さん

渡邊修一さん

●父子家庭として格闘した日々
今から15年前、渡邊さんが離婚し、幼い娘二人を引き取り、家族3人赴任先の浜松市で生活を始めたとき、それまでの仕事一筋の生活が変わった。幼い娘二人を抱え、可能な限り仕事と育児を両立してきたが、病気(腸閉塞)が原因で入院することになり、それまで働いていた家電量販店を退職することになった。その後も再就職はしたが、再び体調を崩し、腸閉塞で入院。結局その会社も辞めた。
父子家庭で、仕事と育児を両立することは並大抵のことではなかった。収入を維持しようとすると長時間労働や出張を受け入れざるを得なく、子どもと過ごす時間が極端に減る。近くに育児支援をしてくれる親族もなく、ひとりですべてを抱え込んでいるうちに、ストレスから病気を発症。会社を辞めざるを得ないという悪循環となった。そこから貧困の連鎖が始まった。
母子家庭に対して、父子家庭への行政からの支援も現在と比べ当時はまだ少なかった。
父子家庭の親は、何でもひとりで抱え込み、孤立している人が多いと渡邊さんは感じている。なかなか「助けて」とSOSを出すことのできる男親がいない。かつての渡邊さんもそうだった。「男はこうあるべき」というジェンダー規範が父子家庭の親たちを苦しめていると気づいた。
●社会から孤立する父子家庭のために
現在渡邊さんは、NPO法人サステナブルネットを立ち上げ、ひとり親家庭のための学習支援や相談などの活動を行う中で、ひとり親家庭同士のつながりや経済的自立を後押しすることを目指す。
特に孤立しがちな父子家庭が、お互いの悩みを共有したり、助け合ったりできる関係を築くことができるようなネットワークづくりを考えている。
また、ひとり親家庭の子どもに支給される児童扶養手当を頼りに生活する家庭が少なくなく、子どもが18歳になって支援が切られた後、経済的な自立が難しい家庭が多い中、子どもが小さい頃から、将来を見越して支援に頼り切らない、経済的に自立した環境を作ることが必要と説く。
先日、父子家庭の大学生が父子家庭についての卒論の調査のため、わざわざ東京から浜松に来てくれたそうだ。渡邊さんの所に調査に来る前に、東京都内の区役所などにヒヤリングをお願いしたところ、父子家庭の支援の実績がないという理由で断られたとのことだった。
父子家庭支援がまだまだ始まったばかりと考える前に、弱音を吐けない、恥ずかしいなど、声を上げられない男親のジェンダーの問題が根深く、また、職場において子育ての価値が認識されていないという事実もあり、父子家庭で育児に追われていると、仕事ができない人とレッテルを貼られる、出世から外れるなどの問題もあると考える。
社会の中で見えにくい父子家庭の課題を顕在化し、課題解決に向かう渡邊さんの活動は、父子家庭の当事者たちだけでなく、男女共同参画社会を目指す私たちすべてに対する問いかけだ。